モンドその他の記録
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私には書くことも見つけることもできないが、
この絶望のもつ英知をきわめて概略的にでも伝えられるような言葉が、
ひとつでも天降ってくれたならば、あらゆることが可能となるであろう。
少年は、この事態を理解することは自分の力にあまると判断して、
彼女を見つめている。
だから残されているのは、海と風と雨と激しい波と焼けつくような砂であり、
それと同じように、開いた冷たい手、苦悩で青ざめた手をした、
この、耳を貸さない、つれない女、
彼がもう離れたくないと思っているこの女性である。
そして少年もまた、彼女と同じような兇暴なるそぞろ歩きに移り、
背信行為に突入してゆく。
彼は歩いてゆく彼女の姿を眺めているが、その一歩一歩が、
その都度砕けてその都度元にもどる激情のうちに、
彼女を最後の地点まで運んでゆく。
彼は、自分にまだ理解できないことに気づき、
自分にまだ見えないことを見てとり、
その透視力が不透明なため、彼の眼に涙があふれてくる。
―― 1990, Marguerite Duras
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